習近平国家主席が実現を急ぐ「共同富裕」…実施によって生じる効果とその留意点

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習近平国家主席が実現を急ぐ「共同富裕」…実施によって生じる効果とその留意点

    習近平国家主席が実現を急ぐ「共同富裕」…実施によって生じる効果とその留意点習近平国家主席は、党規約の第2の目標「建国100年(2049年)までに社会主義現代化強国全面建設」の実現に向け、2021年以来、「共同富裕」を新たな政治スローガンにしている。一部に、社会主義初期への回帰ではないか

習近平国家主席が実現を急ぐ「共同富裕」…実施によって生じる効果とその留意点

    

習近平国家主席が実現を急ぐ「共同富裕」…実施によって生じる効果とその留意点

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習近平国家主席は、党規約の第2の目標「建国100年(2049年)までに社会主義現代化強国全面建設」の実現に向け、2021年以来、「共同富裕」を新たな政治スローガンにしている。

    一部に、社会主義初期への回帰ではないかといぶかる声も上がるが、党はそれを打ち消す発言を行うなど抜かりない。

    この基本的考え方がはらむ問題に加え、具体的政策において「共同富裕」実施が持つ意味について考察し、その留意点を探る。

    

「共同富裕」台頭の背景と具体的論点

周知のとおり、一般的な経済理論によると、市場経済は効率面で最適化を達成するが(いわゆるパレート最適)、なんらかの公正な分配を自動的には実現しない。

    このため、中国の「共同富裕」や最近のわが国での「新資本主義」の議論を待つまでもなく、経済哲学・倫理学の分野では長年にわたり「社会的公正」についての議論が行われてきた。

    

改革開放の過程で市場経済的要素を取り入れてきた中国が直面している効率と分配の公正に関わる問題の本質は、市場と政府の関係という論点も含め基本的に欧米と同じだが、(『根本的な問題――政府が市場にどう向き合っていくのか?』参照)市場経済に「社会主義」の冠が付く中国の場合、共産党統治の正当性を国民に示す必要上、欧米以上に分配問題に踏み込んで対応することに迫られている。

    

米国ではワシントンポスト誌が2021年12月、また雑誌「Palladium」10月号が王沪寧常務委員についての論評を掲載。

    「王氏が中国夢、一帯一路、反腐運動、習思想などを考案。

    中国の政策を決め習氏に大きな影響力を持つ。

    自由主義世界にとって最も危険な人物は習氏ではなく王氏」とし、「共同富裕」も「王思想」の勝利と脅威を示すものとした。

    

それによると、

①王氏の思想はマルクス主義、中国の伝統的儒教思想、欧米の国家理念、民族主義などを融合させて「中国特色社会主義」建設を狙ったものだが、相いれない考え方を混ぜただけで本来うまく機能するはずがない

②政治や人権面での自由化はないまま、経済面の自由化だけ進めた結果、最近の中国内の流行語で言う「内巻」「躺平」※1といったニヒリズム(虚無個人主義)を進行させた

③その結果、格差拡大など欧米と同じ問題が中国でも発生

④こうした状況下、欧米の経済や文化の流入をより厳格に阻止するしか選択肢はなく、それが「共同富裕」提唱に至った

と論じている。

    

※1 いずれも中国ネット上の流行語。

    「内巻(ネイジュエン)」は元来、社会が一定の発展段階に入った後、次の段階に移行できず停滞することを指す社会学用語だが、「停滞から生じる有限な資源の奪い合い、組織内の無意味で非理性的な競争」→「社会的ストレス」。

    「躺平(タンピン)」は「寝そべって何もしない」。

    

「共同富裕」モデル地区に指定された浙江の党委書記は、モデル地区実施方案公表直前の2021年6月、「共同富裕は普遍的な富裕という基礎に立った差別のある富裕で、完全に平等な所得分配(平均主義)を意味するわけではない」「単に富裕層を殺して貧困層を救い(殺富済貧)、貧富を平準化する(均貧富)ものではない」と発言。

    中央財経委も「共同富裕は画一的な平等主義ではない」として、同様の考え方を示している。

    

中央財経委直後から、かつての「大鍋飯※2」への回帰ではないか、あるいは党の歴史の初期、封建的土地所有制の改革を進める政治スローガンになった「打土豪分田地」※3、つまり「地主(土地富豪)を倒し、農地を農民に分ける」の現代版ではないかという懸念や反発する声があるが、決してそうした社会主義初期への回帰ではないことを示したということだろう。

    こうした基本的考え方の問題に加え、具体的政策の面で「共同富裕」実施はいかなる意味を持つのか、いくつか留意すべき点がある。

    

※2 同じ1つの鍋から皆が分け合って食べるという意だが、現在では「過度の平等主義、悪平等」といった否定的な意味として使われている。

    

※3 1927年8月7日の党中央緊急会議、いわゆる八七会議

留意点① 国民経済計算上の個人部門所得シェア

かつてのような高成長が望み難い状況下、パイを大きくするためには、国民経済計算上、個人(住戸)部門所得の対GDPシェアを高めることが重要。

    中央財経委は分配を市場機能に基づく初期分配、税や社会保障など財政手段を通じる2次分配、寄付や慈善事業による3次分配に整理している。

    

国家統計局資金循環(流量)統計によると(図表1)、個人部門初期分配シェアは1992年65.5%から2010年57.1%にまで低下した後上昇に転じ、2019年61.4%。

    2次分配後の可処分所得シェアでも同様の傾向が見られる。

    世界平均60%(CEIC,WIND 統計)なみの水準だ。

    

[図表1]部門別所得対GDPシェア(%、資金循環表ベース) (注)本統計は1992年から公表。

    中国人民政府網よると、「狭義政府」が行政機構のみを指すのに対し、「広義政府」は司法、立法など国家権力に関わるあらゆる機構を含む。

    (出所)中国国家統計局統計年鑑各年版

この裏側として、特に2次分配後の広義政府部門シェアの上昇が著しかったが、近年はやや低下。

    成長率が鈍化する中で、個人所得税や零細事業者向け減税、社会保険料負担軽減措置(降税降費。

    財政部、税務局によると、13次5カ年規画中7.6兆元、2021年1.1兆元で同年中央・地方一般公共予算収入の0.5%相当)が採られたことが背景にある。

    

ただ、個人部門可処分所得の対GDPシェアは国家統計局の世帯収入標本調査に基づくと(図表2)、2021年43%。

    資金循環表とかい離し世界平均を大きく下回る。

    かい離の原因は不明だが、標本の偏りによるものかもしれない(現在の標本調査の範囲は31省市区の約1800の県市区から16万世帯を任意抽出)。

    

[図表2]個人部門所得シェア(標本調査ベース)(注)1人当たり平均可処分所得の標本調査は、カナダ統計局の協力を得て、2013年分から都市と農村を一体的に行うよう改善(2014年2月24日付人民網)。

    総人口は各年末。

    (出所)中国国家統計局統計より筆者作成

留意点② 2次分配

歳入面では増値税(付加価値税)を中心に累進性の低い間接税が税収の5割、個人所得税が7%という間接税中心の税体系の見直し、2021年全人代常務委が決定した土地使用権への課税(房産税)の試験的実施、その関係で、2011年から上海と重慶で試験的に実施されている課税の扱い、遺産税(相続税)の導入、所得の捕捉など徴税面の改善が課題。

    

なお、3月に開催された全国人民代表大会(全人代)後、予定していた房産税の2022年試験的実施拡大は、一部試験地の条件がまだ整っていないことを理由に(実際は現状、不動産市況が低迷していることが大きいと思われる)、見送る旨発表された。

    
 

2022年3月全人代に向け、全人代委員から、「共同富裕」実現のため、所得課税最低限を引き上げると同時に、最高税率を現行の45%から50~55%に引き上げるべきとの提案もある(2022年2月20日付央視財経)。

    歳出面では社会保障など大半の公共サービスが地方政府レベルで提供されており(教育、医療、住宅の各々80%、70%、60%が地方負担)、地方財政悪化を招く他、その行政能力に大きな差がある。

    

発改委は2022年2月、地方政府に対し、中国の発展レベルはなお先進国より低く、地方政府は「共同富裕」の下で過大なことを行うのではなく、医療、教育、住宅など基本的なサービスを充実させる堅実な取り組みが求められると発言。

    

房産税に加え、一部大手不動産企業への反独占の観点からの管理強化、安価な政府保障性賃貸住宅の供給増による民間市場の圧迫などで不動産業界が打撃を受ける結果、土地に依存する地方政府歳入にも影響が及ぶ(2021年土地出譲収入は不動産市況軟化を受け、伸びが前年15.9%から3.5%へ鈍化。

    地方歳入総額に占める割合はなお40%超。

    『不動産市況の低迷が増幅する中国の「地方債務リスク」』参照)。

    

保障性賃貸住宅については、不動産企業だけでなく、多くの国有企業や私企業、政府部門が関与している。

    2022年2月、人民銀行と銀行保険監督管理委員会は保障性住宅関連融資を銀行の不動産融資集中管理の対象外とする通知を発出。

    また2月中旬までに地方全人代を開いた30省市区の2022年政府工作報告で保障性住宅建設推進が最も頻繁に多く言及された用語の1つになっている。

    地方財政は歳入歳出両面から圧迫される恐れがある。

    

他方、不動産市場への打撃が予想されるだけに、2021年9月以降発生した恒大、世茂など一連の不動産企業の債務問題が「共同富裕」推進の足かせになることも考えられる。

    総じて財政改革には大きな困難が伴う。

    

留意点③ 3次分配

中央財経委で「高収入層や企業がより多く社会に還元することを奨励」とされた寄付や慈善事業などの「非市場的手段」。

    自発的なものとされているが、一般に中国では党・政府の言うことは実質的には強制的なものと受け止められ、富裕層や大企業が党・政府の圧力を強く感じることになる。

    

中央財経委後2週間余の間で、株主向広報文書で「共同富裕」に言及する企業が相次ぎ、その中には中国銀行を始め多くの影響力の大きい中国を代表する大企業が含まれた。

    ネットサービス企業大手のテンセント、アリババを初め、「共同富裕」への資金提供を表明する企業も相次いだ。

    

これらに関し、批判的な筋からは「慈善基金への拠出ではなく、カネが企業の帳簿上に残ったままであることから偽の寄付」「党との関係を考慮した政治投機」「中国ではいずれ、慈善基金もみな当局が管理している」「党が巨大私企業からカネをかすめ取る手法であることは明らか」などの批判がある。

    著名芸能人を含む富裕層や大企業は格差のスケープゴート(替罪羊)にされているとの受け止めもある。

    

寄付を申し出る億万長者が見られる一方で、当局の監視を逃れるためSNSの利用を止める、絵画購入などによる資金洗浄、オフショアの信託や外国企業への投資、地下非合法金融を利用するなどの方法で米国を中心とする海外に資産を移転する動きが活発化している。

    「共同富裕」発表後、富裕層が2か月間で46億ドルの資金を海外に移転したとの情報もある※4

    

※4 2022年1月海外華字各誌

3次分配はあくまで補助的なもので、貧困層6億人と言われる中で、「共同富裕」実現の主たる手段にはなり得ない。

    中国内専門家の間でも、「共同富裕」にとって「錦上添花」、つまりすでに美しいものに花を添える程度(なくても差し支えはない)との指摘がある。

    

留意点④ 曖昧な「高すぎる収入の合理的調整」

中央財経委で「過度に高い収入を合理的に調整する」とされたが、曖昧さを懸念する声が多い。

    異なる業種間で給与水準がかなり異なるだけでなく、同一業種内でも平均収入に格差がある。

    明確な指標がないまま「高すぎる収入」が恣意的に解釈され、「合理的な調整」が過度に行われると、市場の自主性・積極性が容易に損なわれることになるとの指摘である。

    

本連載最終回となる次回は、引き続き「共同富裕」台頭の背景と留意点について詳述するとともに、今後「共同富裕」を進めていく上で紆余曲折が予想される点について分析する。

    

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